及川 知希 卒業論文要旨
地球周回軌道上の人工衛星における摂動の要因のうち,地球から放射される光エネルギーによる圧力(地球輻射圧)を計算するモデルの構築を試みた.その際,放射の非等方性(異方性)を考慮に入れた.放射が非等方的であるとは,ある放射源の輝度が観測方向によって異なることをいう.特に,地球上のある点を射した太陽光は入射角と等しい反射角をとる方向へ強く反射するため,地球からの放射のうち太陽光の反射によるものは強い非等方性を示す.また,放射のふるまいは地球表面の土地や大気の状態(シーン)によって異なるものとなるため,”放射の非等方性”はそれらの関数としてはたらく.本稿では放射の非等方性を数値化したモデルとしてNASAのプロジェクトであるCERES(Clouds and the Earth’s Radiant Energy System)によるAngular Distribution Model(ADM)(Loeb et al., 2003)を用いた. プログラムでは,人工衛星からの地球の可視領域を細かく分割し,土地被覆データと気象データをもとに各セグメントのシーンを判定した.ADMを参照しそれぞれの放射の様相を特定したあとは,人工衛星方向への放射の強さを計算した.各セグメントから人工衛星方向への放射の寄与を合計したものが,そのとき衛星に及ぼされる地球輻射圧の値である. 条件を変えて計算を試し,高い精度を目指すほど必要となる可視領域の分割数が指数関数的に増えていくことや,可視領域のうち日照部分が大きいほど,また可視海面の割合が大きいほど,太陽光反射による地球輻射圧(Shortwave成分)はADMの有無による差が拡大することが確認できた.また,別のADM(ERBE ADM)を適用させたモデル(Otsubo, 2019)との比較では,Shortwave成分では太陽および衛星の仰角が低い地点において計算結果の乖離が拡大することが示された.